『夕暮れて』

 ホームドラマチャンネル『夕暮れて』(1983年NHKドラマ、脚本:山田太一
 まさしく人生の夕暮れにさしかかった中年夫婦の話。ちょうど同じような年齢にあるので、身につまされる部分が多く、面白さよりも辛い感じが勝ってしまった。同時期にフジテレビ721で『早春スケッチブック』(好きな山田太一脚本のベスト3に入る)を見ていたので、よけいにそう感じたのかもしれない。


 私は偏見に基づいた絵空事が大好きなので、現実にころがっている身につまされるだけのドラマはあまり楽しむことができない。現実にある話とありそうな話は似て非なるもので、作品に仕立てる際、そこには雲泥の差が生じる。
 絵空事であるのに見る者を惹きつけて放さない作品というのは、核となる大嘘の脇を、細部のリアリズムがしっかりと固めている。山田太一の脚本が、嘘でありながらそうと感じさせず、心にしみる真実味を持ち得ているのは、大の大人が真剣についている切実な嘘だからである。私はこの真面目で端正な嘘をこよなく愛する。