「男はつらいよ」シリーズ
家人が次から次へと「男はつらいよ」を借りてくる。BS2ではシリーズ全作放映中。衛星劇場でも毎月2作ずつの放映とあって、今月は寅さん三昧。
少し前までは『寅』なんて、うだつの上がらないオヤジが家で寝っ転がりながら喜んで観る映画だとバカにしていたが、いやなんの、これが寅のお定まり名調子に乗せられて次から次へと観てしまう。40歳にして寅の面白さにはまりました。
特に初期の作品はパワフルでハチャメチャで明るくて、寅の傍若無人ぶりが怖いくらいに発揮されていて痛快。
第1作「男はつらいよ」(1969年)では、20年ぶりに再会した妹さくらのお見合い(重役の妻になるチャンス)を、得意のウンコおしっこ話でぶち壊す。
第3作「フーテンの寅」(1970年)では、さくらの夫である穏和な博と、めずらしく取っ組み合いの喧嘩になる。寅は単に面白い変わり者の「おにいちゃん」ではなく、まっとうな生き方から外れた手に負えない人間でもあることが笑いながらしっかりとわかる。
初めの頃の寅は、常識もへったくれもなく「結構毛だらけ猫灰だらけ」のやりたい放題、そのやり方もまるで子供で、いや子供になどできない奔放ぶりでだからこそ喜劇としての面白さに力がある。
子供といえば、さくらと博のあいだに一人息子(初代・中村はやと)がいるが、このおとなしい手のかからなそう満男君は、いつも画面の隅で決してつまらなそうではなくひとり遊びをしている。とても秀逸なのは、子供をきちんと子供扱いして話に絡ませてこないところである。これも、初期の作品の方が面白い理由のひとつになっている。
『夜の流れ』
日本映画専門チャンネル『夜の流れ』(1960年、監督:成瀬巳喜男・川島雄三)
3月から始まった「4ヶ月まるごと成瀬巳喜男劇場」も今月でラスト。63年の生涯に87本の劇場映画を撮ったという成瀬監督だが、内59作品を集中して放送。
『夜の流れ』は、川島雄三との共同監督であり、成瀬映画のしっとりまったりした落ち着きのある画面に、騒がしいような溌剌とした動きが加わっている。
川島監督と聞けば、私にとってはまず犬であり、期待通り冒頭部分で黒い犬が通りすぎ、置屋の芸妓(花柳界の母娘の確執の話である)も犬を飼っている。この映画の犬の部分はおそらく川島監督の担当である。犬が映画の本筋とは無関係だったり、一瞬の風景だったりするからである。だが、このちょっとした登場のさせ方が可愛いらしく、犬好きにはたまらない。
成瀬監督も犬や猫を登場させはするが、こうはゆかず、もっとストーリーに絡んできて、意味やたとえの度合いが強くなる。『驟雨』の犬や『めし』の猫などしかり。
その登場のさせ方が悪いというわけではない。『驟雨』も『めし』もユーモアがあって好きな作品に入る。ただ、動物が登場すると妙に感情移入して、そこばかりが後に残ってしまうのである。
『ぎんざNOW!』
TBSチャンネル『ぎんざNOW!』(1972年〜1979年)
せんだみつお司会、和光の交差点を見下ろしながら、「GINZAテレサから中継」の大きなテロップとともに始まるこの番組も、小中学生時代よく見ていた。学校から帰り、晩御飯までちょっと一息という、中途半端ないい時間帯に放送していた。
今回は1977年放送のもの(ほとんど現存していないらしい)だが、「しろうとコメディアン道場」のチャンピオン大会で、学生時代の小堺一機が出場している。審査員の車だん吉にも言われているが、すでに落ち着いた芸を見せていて、ふてぶてしいような貫禄さえある。
「ヤング情報局」のコーナーでは、オリコンの小池社長が、今週のヒットチャートを発表。ちなみに1位は「ウォンテッド」ピンクレディー、2位「愛のメモリー」松崎しげる。11位には「秋桜」山口百恵が初登場。ああ、楽しかりし我が歌謡曲全盛期。
ウゴウゴルーガ
フジテレビ721&739『ウゴウゴルーガ』(1992〜94年)
朝の子供向け番組「ウゴウゴルーガ」に、それはもう毎回感動していた日々から、早くも10年以上が経ってしまった。
当時、ほとんどすべてビデオに録って繰り返し見た。オープニングの名曲&CGからエンディングのテロップまで、一瞬も目が離せない、CGフル活用の子供に媚びない子供番組のまさに傑作だった。
「ウゴウゴルーガ」のタイトルや、毎回奇抜な着ぐるみ状態だったウゴウゴ君とルーガちゃんを一目見ただけで、シュール君やプリプリ博士やみかん星人やさかもとさん、「あさのぶんかぐ」「おしえて!!えらいひと」など、名キャラクターやコーナーが次々に蘇ってきて収拾がつかなくなる。いかに「ウゴルー」にはまっていたか、二度と戻らない愉快な日々を懐かしむような何やら寂しい気持ちになって思い出す。
毎朝「ウゴルー」を見て大笑いし、身も心も爽快になり、きょうも一日きちんと当たり前に過ごそうという気分で日常に戻る。これが優れた娯楽の持つ本来の力であるということを痛感する。私にとって精神衛生上大変好ましい、いや必要不可欠な番組のひとつ。久しぶりに見てよかった。
『パリの恋人』
BS2『パリの恋人』(1957年、監督:スタンリー・ドーネン)。
オードリー・ヘプバーンとフレッド・アステアのミュージカル・ラブストーリー。恋愛ものもミュージカルも大の苦手であるが、この映画はとても楽しめた。
いきなり、真っ白い部屋のカラフルな扉から、ウエストをキュッと絞ったおしぇれなおねえさん達が登場。どこかで観たシーンだと思いきや、フリッパーズ・ギターのビデオ・クリップに収められた『カメラ!カメラ!カメラ!』とほとんど同じ映像であった。パクリであると言ってしまえばそれまでだが、誰もが真似をしたくなるおしゃれで可愛いらしい、インパクトの強い場面なのである。
バレリーナであったヘプバーン(27歳)のダンスの軽やかさは言わずもがな、フレッド・アステアの57歳とは思えぬキレの良さにため息が出る。傘とトレンチコートを巧みに操りステップを踏む姿は、ミュージカル嫌いをすっかり忘れさせてくれる。
『タワーリング・インフェルノ』(心にくいペテン師役)を観たばかりでもあり、アステアのかっこよさばかりが目に付いた。
『黒い十人の女』
衛星劇場『黒い十人の女』(1961年、監督市川崑)。
これも放映されると、つい観てしまう映画。
テレビプロデューサー風松吉(船越英二)が、妻(山本富士子)と9人の愛人達から復讐される話。愛人役は、岸恵子、中村玉緒など豪華な顔ぶれであるが、幽霊になっても普通に登場する宮城まり子が特に愛嬌のある怖さで面白い。
風松吉の、のらりくらりとした、暖簾に腕押し的なはぐらかしの巧い性格が、曖昧な心理描写に頼ることなく、エピソードによって実によく描かれている。彼は本当はどういう人間なのか、よくわからないのが秀逸。結局のところ、妻を含め十人の誰をも愛してなどいないのではないか。最後に仕事を奪われて狼狽し、図らずも自分らしき部分を露呈させてしまうのが利いている。
完全な自由の果て、心の内を覗いていった果ての何もなさが、乾いたタッチでテンポ良く描かれる。余計なことを喋らない、スタイリッシュな大人の映画である。何度見ても面白い。
『タワーリング・インフェルノ』
WOWOW『タワーリング・インフェルノ』(1974年、監督:ジョン・ギラーミン)
再放送で何回も観た映画。テレビでの再放送が多いせいか、またかと思いながらもつい観てしまう。繰り返し観た映画ではダントツの一位。
先日、『大脱走』を観たばかりでもあり、消防隊長スティーブ・マックィーンのかっこよさばかりが目に付く。映画でもドラマでも私生活のない男、つまり限られた空間の中で仕事人としてのみ描かれている人物にどうしても好感を抱いてしまう。
いきなり火事が起こって消すだけの話に、165分という長さであるが、まったく退屈しない。現在の私は90分以上は耐えられない体になっているので、時間を意識せずに楽しめたことだけでも嬉しい驚きである。
おそらく「消火」とういう一点に話を絞っている徹底ぶりが、観る者によそ見をさせないのだろう。いたずらに政治的な話を出したり、個々人が背負った人生やマスコミの過熱ぶりなどに話が逸れたりもしないので、実にすっきりと「消火」の話を堪能できる。
最後のシーンで登場する泣かせの猫(飼主は死亡)は、そう来るとわかっていながらも泣きました。
またどこかのチャンネルでやっていれば観ます。絶対。