『生きる』

DVD『生きる』(1952年、監督:黒澤明
 日本映画専門チャンネル『Talking about Kurosawa』で、荒俣宏氏がこの『生きる』について熱く語っていたので、急に観たくなった。人間は誰でも自分の人生において、たとえ一瞬であっても必ず輝くことができる、そういう希望を持たせてくれる映画である、と。


 素直に観れば、胃ガンで余命いくばくもないことを知った主人公(市役所の市民課長)が、最後の最後になってお役所仕事に生き甲斐を見出し、ひとつの達成感とともに命を全うする話である。取り憑かれたようになって生き甲斐探しをはじめる主人公の言動は、これまで無駄にした膨大な時間を取り戻そうとどんどん凄みを増してくるが、鬼気迫るほどにどこかユーモアも漂ってくる。元部下の若い女子社員とのやりとりが面白く、課長さん、気味悪い!と言われるのが一番痛快だった。シリアスでありながらユーモアも効いているところがとてもいい。


 だが、あとあとまで何ともすっきりしない気持ちが残る。この映画の中で、いったい何人の人間が、自分の人生を幸せに生きるのだろうか。荒俣氏は黒澤映画の面白さとして、悪(人)も魅力的に描いている点を挙げているが、まさに数多い登場人物のひとりひとりを、善悪あわせ持ったリアルな人間として描いているために、このすっきりしないが故の深みある面白さがじわりと残るのである。つい2回続けて観た。また何回でも観たくなるだろう。