『デビルマン 誕生編』

 東映チャンネル『デビルマン 誕生編』(1987年、監督:飯田つとむ)
 原作者永井豪が脚本に参加、忠実に映像化された作品。シビアなアニメである。デーモンの殺戮シーンが続くが、その理由に哲学があるから見入ってしまうのだろう。


 息つく間もないほどテンポがいい。1時間足らずの映画であるが、この短さが内容の濃さをさらに増している。続いて放映の『妖鳥死麗濡編』との間に、現在公開中の実写版『デビルマン』の予告が挟まっていて、アニメとの雰囲気の相違に戸惑う。

『樋口一葉』

 ホームドラマチャンネル『樋口一葉』(1985年、原作:大野靖子
 樋口一葉大原麗子、妹の邦子に大場久美子半井桃水石坂浩二。あまりにも主人公のイメージが先行しているので、期待せずに見たのだが面白い。不自然さを感じずに話に入ることができた。


 一葉・邦子姉妹の仲の良さが、とても可愛いらしく描かれている。どうにか文章で稼ぎ、母と妹を養おうとする一葉、手仕事が得意でいつも明るく姉を助ける妹、というと何だか白々しい感じがするが、それが興ざめすることなく、ドラマの一つの柱として巧く成り立っている。


 第4回では、下谷区(現・台東区)竜泉寺町で心機一転、あらもの・駄菓子の店を開業する。『たけくらべ』の舞台となり、その冒頭で霜月・酉の市の様子が生き生きと描かれる竜泉である。
 そういえば、もうすぐ酉の市である。虚実ごちゃまぜになった心地よさを味わいながら散歩に出る。鷲神社では、すでに熊手を並べる足場がすっかり組まれている。今年の酉の市は三の酉まで。11月2日、14日、26日。

『曽根崎心中』

BS2『曽根崎心中』(1981年、監督:栗崎碧)
 文楽の人形を屋外に持ち出して撮影した画期的な映画。
 赤川次郎氏も、この映画が文楽にのめりこむきっかけになったという。


 カメラマン宮川一夫の撮影がすごくきれいであると、赤川氏も桐竹勘十郎との対談で語っているが、まさに人形が街を往来していても不思議ではないほどに、生き生きと美しく撮られている。
 人形遣いがみな黒子であるため、もしかしたらほんとうに、夜中にこっそりと人形たちが闊歩しているのではないかという、怖くも楽しい妄想すら抱く。いや、浅草竜泉あたりを何気なく歩いていて欲しいとさえ思う。人間にはとうていかなわない、人形ゆえの艶めかしさを痛感した。

『生きる』

DVD『生きる』(1952年、監督:黒澤明
 日本映画専門チャンネル『Talking about Kurosawa』で、荒俣宏氏がこの『生きる』について熱く語っていたので、急に観たくなった。人間は誰でも自分の人生において、たとえ一瞬であっても必ず輝くことができる、そういう希望を持たせてくれる映画である、と。


 素直に観れば、胃ガンで余命いくばくもないことを知った主人公(市役所の市民課長)が、最後の最後になってお役所仕事に生き甲斐を見出し、ひとつの達成感とともに命を全うする話である。取り憑かれたようになって生き甲斐探しをはじめる主人公の言動は、これまで無駄にした膨大な時間を取り戻そうとどんどん凄みを増してくるが、鬼気迫るほどにどこかユーモアも漂ってくる。元部下の若い女子社員とのやりとりが面白く、課長さん、気味悪い!と言われるのが一番痛快だった。シリアスでありながらユーモアも効いているところがとてもいい。


 だが、あとあとまで何ともすっきりしない気持ちが残る。この映画の中で、いったい何人の人間が、自分の人生を幸せに生きるのだろうか。荒俣氏は黒澤映画の面白さとして、悪(人)も魅力的に描いている点を挙げているが、まさに数多い登場人物のひとりひとりを、善悪あわせ持ったリアルな人間として描いているために、このすっきりしないが故の深みある面白さがじわりと残るのである。つい2回続けて観た。また何回でも観たくなるだろう。

『シャツの店』

ホームドラマチャンネル『シャツの店』(1986年、脚本:山田太一、演出:深町幸男)が始まる。
 東京、佃でワイシャツ作り一筋の職人(鶴田浩二)が、妻(八千草薫)と大学生の息子(佐藤浩市)に突然家を出て行かれる。家族の気持ちを顧みない父親の頑固さに、妻と息子は耐えきれなくなったのである。


 のっけから山田太一らしいセリフの応酬で引きこまれる。長年夫に尽くしてきた妻の鬱積と、動揺しながらも面には出さない夫の意地が見事に描かれている。
 心の内をぶちまけても、けっして醜くくも幼稚っぽくもならないのが、山田ドラマの巧いところである。観念的な言葉に逃げたり頼ったりせず、どこまでも具体的に丁寧に気持ちを言葉にしているからこそ、ここまで会話で引きつけられるのだろう。

「スーパージャイアンツ」

チャンネルNECO『スーパージャイアンツ 鋼鉄の巨人』(1957年)

 続編とともにシリーズ9作一挙放送。
 和製スーパーマン(宇宙から飛来)が、謎の異星人や怪人から地球を守るヒーローものであるが、とにもかくにも宇津井健(スーパージャイアンツのおじさん)の、その太い体躯にあまりにもフィットした全身タイツ姿に衝撃を受ける。そして、この姿が脳裏に焼きつき、次々に見ずにはいられなくなるのである。
 細かいところにとらわれない大胆なストーリーや特撮シーン、宇津井健の魅力というかタイツの魔力を大いに楽しむ。

漫画映画の世界

チャンネルNECO、「20世紀シネマライブラリー 漫画映画の世界」


『動絵狐狸達引』(1933年)作画:大石郁雄
『オモチャ箱シリーズ第3話 絵本1936年』(1934年)、作画;中野孝夫 田中善次 舟木俊一 永久義郎 平泰陣 西口羆
『協力防空戦』(1942年)作画:芦田宏昌 福田里三郎 大工原音 坂上信次
『古池絵巻 蛙と狐』(1949年)作画:琴寄金二 鈴木淳夫 奈良次雄(原画:山田順治)
『トラちゃんのカンカン虫』(1950年)動画:熊川政雄 安部章毅 浜桂太朗 木下敏治 古沢秀雄 もりやすじ
『ポン助の腕くらべ』(1951年)作画監督:大石郁雄 作画:若林俊郎


 『古池絵巻 蛙と狐』と『トラちゃんのカンカン虫』が面白かった。登場するのは動物だけだが、性格や仕草は人間そのものなので、子猫(トラちゃんや三毛ちゃん)などの巧い絵には妙にエロティックな魅力がある。教育映画として作られたものなので、あざとさがない分、そのエロティックな可愛いらしさは増している。
 また、『トラちゃんのカンカン虫』は、動く絵としての楽しさも十分あり、10分あまりの短い作品であるが、現在の優れた日本のアニメの元がここに見られる。