『黒い十人の女』

 衛星劇場黒い十人の女』(1961年、監督市川崑)。
 これも放映されると、つい観てしまう映画。
 テレビプロデューサー風松吉(船越英二)が、妻(山本富士子)と9人の愛人達から復讐される話。愛人役は、岸恵子中村玉緒など豪華な顔ぶれであるが、幽霊になっても普通に登場する宮城まり子が特に愛嬌のある怖さで面白い。


 風松吉の、のらりくらりとした、暖簾に腕押し的なはぐらかしの巧い性格が、曖昧な心理描写に頼ることなく、エピソードによって実によく描かれている。彼は本当はどういう人間なのか、よくわからないのが秀逸。結局のところ、妻を含め十人の誰をも愛してなどいないのではないか。最後に仕事を奪われて狼狽し、図らずも自分らしき部分を露呈させてしまうのが利いている。


 完全な自由の果て、心の内を覗いていった果ての何もなさが、乾いたタッチでテンポ良く描かれる。余計なことを喋らない、スタイリッシュな大人の映画である。何度見ても面白い。