中村伸郎

 中村伸郎が急に若返った! びっくりして画面をよくながめたら、『白い巨塔』(フジテレビ721)の東教授が、『秋刀魚の味』(1962年、監督:小津安二郎)のやんちゃオヤジ河合になっていた。確かに、16年分若返っている。ウトウトした隙に家人に替えられてしまったのだ。


 
 痩せぎすで意地悪そうな中村伸郎のねずみっぽい存在感は同じだが、『秋刀魚の味』では余裕ある中年オヤジのいい味が出ている。会社の重役でありながら、全くあくせくせず、友人の娘の縁談話を肴にのんびり日本酒を舐め、間違っても酒をのみながら仕事の話などしない。
小津の映画に登場する、経済的にも精神的にも余裕のあるやんちゃオヤジは実に愛すべき存在である。今こういうサラリーマンはどこにも存在しないのだろうか。