『夕暮れて』

 ホームドラマチャンネル『夕暮れて』(1983年NHKドラマ、脚本:山田太一
 まさしく人生の夕暮れにさしかかった中年夫婦の話。ちょうど同じような年齢にあるので、身につまされる部分が多く、面白さよりも辛い感じが勝ってしまった。同時期にフジテレビ721で『早春スケッチブック』(好きな山田太一脚本のベスト3に入る)を見ていたので、よけいにそう感じたのかもしれない。


 私は偏見に基づいた絵空事が大好きなので、現実にころがっている身につまされるだけのドラマはあまり楽しむことができない。現実にある話とありそうな話は似て非なるもので、作品に仕立てる際、そこには雲泥の差が生じる。
 絵空事であるのに見る者を惹きつけて放さない作品というのは、核となる大嘘の脇を、細部のリアリズムがしっかりと固めている。山田太一の脚本が、嘘でありながらそうと感じさせず、心にしみる真実味を持ち得ているのは、大の大人が真剣についている切実な嘘だからである。私はこの真面目で端正な嘘をこよなく愛する。

『ジョーズ』

 DVD『ジョーズ』(1975年、監督:スティーブン・スピルバーグ
 昔観たときの印象は、海水浴客がただサメに喰われるだけの怖い映画だった。だが今観ると、命がけでサメと格闘する、それぞれ立場の違う男3人のいい話である。
 などと気取ったことを言って、『ジョーズ』を更に楽しめたのは、三谷幸喜監督『みんなのいえ』のおかげである。
ジョーズの』の後半、サメ退治に海へ出る漁師、海洋学者、警察署長が、『みんなのいえ』では田中邦衛唐沢寿明田中直樹(ココリコ)に相当していることを、「24時間まるごと三谷幸喜」のインタビューで知り、さっそく『ジョーズ』を今一度観た次第なのである。
 その結果、オロオロとする警察署長が田中直樹に見えて仕方がなかった。船上で3人の男が傷自慢をする場面はすごく笑えた。そして『ジョーズ』『みんなのいえ』ともに、何度でも面白く観ることができた。オリジナルを凌駕せんとするこの惚れ込みようこそが、好きな作品の影響を受けて後から物を作る人の誠実さである。


 それにしても、ラストがすっきりしていてすごく良い。今だったら、サメ退治に成功した署長は、家族のもとに帰って抱擁……という具合になるだろう。
 男同士の話が好きな身としては、女の登場しない映画をもっと作ってほしい。三谷幸喜も『ジョーズ』同様大絶賛する『大脱走』(1963年、監督:ジョン・スタージェス)を観ながら、つくづくそう思った。

『クイズダービー』

 TBSチャンネルクイズダービー』(1980年、第250回)


 「ロート・ロートロート、ロート……」で始まる、ロート製薬提供のクイズ番組の双璧といえば『アップダウンクイズ』と『クイズダービー』だった。
 満5年を記念して、「賭ける」側の席に中島梓楳図かずお赤塚不二夫タモリ小川知子宮尾すすむの3組を迎える。タモリさんファンには感涙の回。司会の大橋巨泉を、すでに現在同様そっくりの物真似でからかうタモリさんは、髪(長い)もサングラスも真っ黒で、ジーンズに運動靴のようなものを履いている。


 それにしてもこれは今見ても、シンプルで素直に面白いクイズ番組の傑作である。30分をこんなに短く感じたのも久しぶりだった。昔、『クイズダービー』(土曜の夜)を楽しみにして、一週間過ごしたのもうなずける。

『みんなのいえ』

 日本映画専門チャンネルみんなのいえ』(2001年、監督・脚本:三谷幸喜


 すでに3、4回見ていて、その度に三谷作品では常連の役者たちがどこでどんな役で出てくるかとか、田中邦衛の大工仲間の老練な味わいを楽しんだりするのだが、今回は特に吉村実子(田中邦衛の妻)の控えめながらも深みのあるお母さんに惹かれた。性格も服装も実に地味で、ほとんど台詞もないが、「昔の男」をうまい具合に立て、物事をしかるべきところに落ち着けてきたのはこういうお母さんであったと、笑いながらしみじみしてしまった。


 吉村実子でつい思い出したのは、『あ・うん』(向田邦子原作・1980年NHKドラマ)で、そのときのフランキー堺の妻の役もとてもよかった。
 映画終了後、三谷幸喜がインタビューに答えていたが、『みんなのいえ』で描きたかったのは職人同士のたたかいであり、家の建て方に関する蘊蓄的な部分は嘘である。
「プロの男同士の話」この面白さこそが、三谷作品を愛するゆえんであるが、そのポイントの一つは彼らの私生活を極力描かない巧さだと思う。

『キューポラのある街』

チャンネルNECOキューポラのある街』(1962年、監督:浦山桐郎
 鋳物工場の溶銑炉のことをキューポラという。舞台となった埼玉県川口市で幼少期は暮らしていたので、小学校の体育館でこの映画を見せられた覚えがある。もっとも、吉永小百合が荒川の土手を走っていたという記憶ぐらいしか残らなかったが。
 住んでいたアパートのすぐ隣が鋳物工場であった為、部屋の窓からドロドロに溶けた真っ赤な鋳鉄が見えた。鋳物のにおいの熱風が常に立ちこめていて、今思うと、いつ自分の家が火事になってもおかしくないような所に住んでいたのだった。直にその鋳物工場も高層マンションになり、同じクラスに転校してきたマンションの子供を、お金持ちそうだなあなどと、ぼんやり思ったりした。自分の家が貧乏でも不思議と卑屈にならず、猛烈に羨ましがったりしない鈍い子供だったのだろう。
 貧乏でもどこか呑気で希望が持てた頃の映画である。

『秋日和』

BS2『秋日和』(1960年、監督:小津安二郎)
 未亡人の母と敵定期の娘の話が中心ではあるが、おじさん三人組のやんちゃぶりがいい。
 亡き親友の七回忌に集まった佐分利信中村伸郎、北竜二の中年(五十三、四歳)三人が、坊主のお経が長いだの、未亡人(原節子)はますます魅力が増しただの、美しい妻をもらうと夫は早死にするだのと、料理屋の仲居をからかいながらお喋りしている場面は見るたびに笑う。
 何と言っても仕事の話をしないのがいい。中村伸郎の意地悪なネズミのような悪ガキぶりが特にいい。小津監督の描く、生活にも気持ちにもゆとりのある楽しげなエリート中年男は、今や私のひとつの理想像となりつつある。

『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』

日本映画専門チャンネルゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』(1969年、監督:本多猪四郎)。


 オープニングから、歌がすごくいい。曲調は当時の娯楽映画風で、お姐ちゃんシリーズをちょっと思わせる。また、歌詞が最高である。怪獣だからいろいろ壊しちゃうけどごめんなさい、とあっけらかんと言い放ち、映画全体がこの怪獣の視点で通されている。小賢しいテーマや、とってつけたような社会正義とは無縁で、とても痛快である。


 話もテンポがよく、きちんと出来ており、怪獣映画にしてはまとまりすぎているほどである。主人公の少年が、両親共働きの弱虫な「鍵っ子」という設定で、私も似たような境遇だったせいか妙に感情移入し、現金強奪犯と一人戦う場面では真剣にハラハラし思わず心で応援してしまった。
 少年の夢の中に出てくる怪獣島のシーンも、ただ怪獣たちが闘っているだけで気分がいい。ヘナヘナの炎しか吐けなかった弱いミニラが奮闘し、ゴジラのような立派な炎が出るようになるところは愛嬌があり、思わずほのぼのなどもして笑った。
 なんといっても終始、少年が怪獣(ミニラ)の視点でいるのが素晴らしい。面白くて2回続けて見た。